最後の追復曲その後
“鳥籠”をコールから受け取った紅の賢者は、それをランタンのように持ち上げて、話しかける。
「久しぶりだね、ヘリオール」
『カーネリア?』
「その名で呼ばれたのは何時ぶりだろう」
カーネリア――紅の賢者の本名であるそれは、本当に一部のヒトしか知りえない、世界からほぼ忘れられた記憶。
『……貴女の方が僕よりも何十年も年上だったのに』
「光翼種として覚醒したのは、お前さんの方が何年も早かっただろう?」
『それでも! それでも、目覚めた時に、僕に気がついたでしょう? 僕が貴女に気がついたように。それなのに、貴女は来てくれなかった……』
ヘリオールの訴えに、紅の賢者の表情が暗くなる。
「それについては、すまなかったと思っている……」
風が吹く屋根の上で、ただ髪を弄ばせながら、紅の賢者は遠い空を見上げる。
『僕は、どうなるの?』
「そうだね……。あんたはただの魂の残渣に過ぎない。それでも意思があるのは、やはり強い力のせいだろう」
あの世界は、きっとこのまま崩れていく。もしくは、今までの魂の循環構造を捨てた世界に変わり果てる。癒す世界も、壊れた世界樹では、行う事など出来うるはずもなく。
『鍵が、あれば……』
「あの世界はもう、終わるべきだ。本来なら、故郷を捨てた、あの日にね」
ヒトが生まれるという幻想。それはただの循環に過ぎない。魂だけでは魔力も法力も作られない。
命も生も、何もかも、それは道具でしかない世界。
『消えなくちゃ、ね――』
その諦めた小さな呟きに、紅の賢者はただ目を伏せた。